日本遺伝カウンセリング学会 理事長就任のご挨拶

理事長 佐村 修

一般社団法人日本遺伝カウンセリング学会
理事長 佐村 修


このたび、日本遺伝カウンセリング学会の理事長を拝命いたしました。長年にわたり本学会の活動を支えてこられた歴代の理事長の先生方、ならびに会員の皆さまのご尽力に心より敬意を表しますとともに、私自身、その志を受け継ぎ、さらなる発展に尽力する決意を新たにしております。
 本学会は、遺伝カウンセリングの学術的基盤と専門性の確立を通じて、社会における遺伝医療の信頼性と質の向上に寄与してまいりました。近年、ゲノム解析技術の進歩とそれに伴う遺伝情報の臨床応用は急速に拡大し、がん、難病、出生前診断、さらには個別化医療に至るまで、私たちの医療現場における遺伝医療の重要性はかつてないほど高まっています。こうした変化に呼応し、遺伝カウンセリングの果たす役割もまた、大きく進化していく必要があります。
 このような時代の節目に理事長をお引き受けするにあたり、私は本学会の使命を改めて確認し、以下の三つの重点施策を中心に、学会運営に取り組んでまいります。

1.認定遺伝カウンセラー制度の充実と国家資格化に向けての体制整備


認定遺伝カウンセラー制度は、これまで本学会と日本人類遺伝学会が協力して運営し、高い専門性と倫理性を備えた人材を育成・認定してまいりました。現在、医療現場において認定遺伝カウンセラーの果たす役割は年々拡大しており、患者・家族への支援のみならず、診療チームとの連携、教育・啓発活動、研究支援など多岐にわたっています。こうした背景をふまえ、認定制度のさらなる質的向上に努めるとともに、国家資格化に向けた制度的整備を進めることが喫緊の課題と考えております。関係省庁との対話を重ね、他職種との調和を図りながら、遺伝カウンセリングの社会的信頼と制度的安定性を高めていくための具体的な取り組みを本格化させてまいります。また、次世代の担い手となる若手認定遺伝カウンセラーの育成にも一層力を入れてまいります。

2.臨床遺伝専門医制度の充実と発展


臨床遺伝専門医は、遺伝診療の中核を担う存在として、患者や家族に寄り添いながら、複雑化・高度化するゲノム情報を適切に扱う能力が求められます。現在の医療現場では、出生前診断、がんゲノム医療、希少疾患の診断など、多様な局面で臨床遺伝専門医の関与が不可欠となっており、そのニーズは今後さらに高まることが予想されます。本学会は、関連学会と連携しながら、臨床遺伝専門医の育成・研修体制の整備、認定制度の見直しといった制度の充実に取り組んでまいります。特に、臨床現場での教育体制の確立、専門医間のネットワーク強化、地域格差の是正といった課題に向き合い、全国どこでも質の高い遺伝医療が提供される環境づくりを推進してまいります。また、医療政策の中に遺伝医療が明確に位置づけられるよう、関係学会・行政機関との連携を強化し、専門医制度の社会的認知と持続可能性を高めることも重要な目標です。

3.ゲノム推進法に基づく社会における遺伝医療の発展


2023年に成立した「良質かつ適切なゲノム医療を国民が安心して受けられるようにするための施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律(ゲノム医療推進法)」は、ゲノム医療の普及と同時に、個人の尊厳・プライバシーの保護、そして社会的理解の向上を重視した新たな枠組みを提示しています。私たち遺伝医療に携わる専門職は、この法の趣旨を深く理解し、科学と人権が調和した医療を実現していく責任を負っています。本学会としては、ゲノム推進法に基づく倫理的・法的課題に積極的に取り組み、遺伝医療の社会的基盤の整備とリテラシーの向上に貢献してまいります。特に、一般市民・患者・教育関係者・行政担当者との対話の場を設け、社会全体で遺伝情報の意義とリスクについて共有できる環境を整えていきたいと考えております。また、ゲノム情報を用いた医療が差別や偏見を助長することのないよう、多様性と包摂性を重んじる文化を育むことも私たちの使命です。学会内における倫理教育の充実と、ガイドラインの整備にも継続的に取り組んでまいります。


 以上の三点を柱としつつ、私は学会運営において「開かれた対話」「多職種連携」「次世代への継承」という理念を重視していきたいと考えています。変化の激しい時代にあっても、私たちが大切にしてきた「人に寄り添う医療」の精神を見失うことなく、実践と学術、倫理と制度のバランスを保ちながら、学会活動を力強く推進してまいります。結びに、本学会の発展に長年ご尽力いただいている会員の皆さまに深く感謝申し上げますとともに、今後とも一層のご支援・ご協力を賜りますよう心よりお願い申し上げます。



令和7年8月吉日
日本遺伝カウンセリング学会
理事長 佐村 修